コミュニカビリティ

【湯川】  今回のポットキャストは私の友人でもある江戸川大学の濱田逸郎教授にお話を伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【濱田】  はい、こんにちは。
【湯川】  こうして面と向かってお話をすると、すごい何か気恥ずかしい感じがするんですけど。(笑)濱田先生はよく、「コミュニカビリティの時代」ということをおっしゃっていますけれども、これはどういう意味なんですか。コミュニカビリティ……
【濱田】  まあ、いわゆる造語でございまして、つまりコミュニケーションのアビリティということなんですけれども。おそらく高度成長のころ、20世紀は、プロダクティビティというのが日本の経済をずっと発展させた、高度成長させてきた、その生産性向上ということは非常に、大きな企業の目標であったわけですね。
【湯川】  うん、そうですね。
【濱田】  それの結果、やっぱり日本は世界に類例を見ないだけの高度成長、あるいは生産大国になったわけですね。ところが今、こうなってきて、世界中が今これだけボーダレスになってくると、ひたすらプロダクティビティばっかりを追求してても、結局、為替相場が、円が高くなっちゃったりなんかして、結局どうもならんという、つまり、プロダクティビティの向上というのは、いまだに大変に重要性というのはあるんだけども、でも、それだけでいいのという時代になってきたんだろうなということですね。
【湯川】  あと重要性ではコミュニカビリティがプロダクティビティを超えたりするんですか。それとも、プロダクティビティは相変わらず非常に企業にとっては重要で、それの何分の一かしかないという、そういう感じで見ておられます? それともかなり企業にとって重要度は、肩を並べる、もしくは超えてしまうようになってくるかもしれないという気でいますか。
【濱田】  超えるということはないと思いますけども、肩を並べるというぐあいに考えていい時代になってきたんじゃないかなと思うんですね。
【湯川】 それは、どういうことで、そういうふうに思われるわけですか。
【濱田】  つまりですね、コミュニカビリティというときに、得てして、普通、我々企業になんかにいた人間にしてみれば、企業のメッセージをいかに消費者に伝えるかという、つまり情報のアウトプットの面でコミュニカビリティというのはとらえがちなんだけれども、どうも最近違うねえと。生活者主権というかな、生活者が強くなってきたよねと。昔は、日本は企業がやっぱりかなり日本の社会をリードした、あるいは経済をリードしたわけですよ。
【湯川】  はい。
【濱田】  しかし、業界内のいろいろな慣習がですね、社会的な指弾も受けたりするわけね。
【湯川】  業界的な慣習は社会的な指弾を受けるというのは、例えば談合であるとか。
【濱田】  談合であるだとか、株の補てんであるだとか、そういうようなことがですね、昔はでも、企業が世の中を引っ張ってきた牽引車だから、それはある程度みんな目をつぶってたわけですよ。
【湯川】  なるほど。
【濱田】  ところが、今ですね、やっぱり消費者が強くなった。もう、企業はモノが売れなくなっちゃって、消費者の声を聞かないと、商品もできなくなってきてしまった。あるいはIRなんかでも、投資家の意向というかな、投資家の考え方を企業の経営に反映させないと、なかなか資金の調達も難しくなってきちゃった、ということでいけば、社会の論理というのをいかに会社の中に持ち込むか、それに合わせて企業経営を変えていくか。つまり、会社の常識から社会の常識にどう転換するかっていうのが、今非常に重要なんですね。
【湯川】  うん、それはどうしてそうなってきたんですかね。消費者が強くなってきたのか、たまたまそうなってきたから、コミュニカビリティが大事だというお話なんですか。消費者がどうして強くなったかというのは、どういうふうに見ておられますか。
【濱田】  消費者が強くなったっていうのは、特にこれは日本の場合ということでありますから、必ずしも世界的にそういうような状況だとは思わないわけですね。日本の場合にはやっぱりモノ余りというのか、非常につまりモノの豊かさと心の豊かさをどちらが、どちらを重視するかというような、これは総務省だったかな、の調査なんかでもかなり前に「モノの豊かさ」を「心の豊かさ」というのが上回っているわけですよ。あるいはちょっと年号忘れましたけれども、西武百貨店が、糸井さんのコピーで「ほしいものが、ほしいわ。」という年間キャンペーンをやったことがあるんですね。あのときに実はもう「ほしいものが、ほしいわ。」というキャンペーンが成立したというのは、大体あれは80年代の半ば過ぎだったと思いますけれども、もうほとんどですね、モノが満ち足りてきちゃったと、こういう状況だと思うんですね。そこで、内需もなかなか拡大しないよというような、ある種、モノの飽和状態というものがまずあって、つまり豊かになって。
【湯川】  豊かになったんですね。
【濱田】  豊かさのツケとしてですね、消費者が強くなってきたと、モノが売れないからと、こういうようなことなのかなと一つは思いますね。
【湯川】  なるほどね。それで豊かさが原因で消費者が強くなってきたので、企業の論理よりも社会の論理のほうが重要になってきたと。
【濱田】  合わせなければいけなくなってきた。
【湯川】  はい。それでコミュニケーションする力というのが必要になってきているということですね。
【濱田】  そうです。したがって、そのときには、モノを発信する力のみならず、聞く力、受信する力、これが大変に重要になってきている。それから受信するだけじゃなくて、それに合わせて経営を手直しするといいましょうかね、自己修正機能というものが非常に重要になってきているという気がしますね。
【湯川】  もう企業というのは、そういうふうにだんだん変わりつつあるんでしょうか。【濱田】  はい、変わらなければならないと思うんですが、現実はなかなかそこまで、変わっているというのは少ないんじゃないでしょうか。特に大企業においては。今後の課題だと思います。
【湯川】  はい、もう少し詳しく、受信する力とか、そういうところをお聞きしたいと思いますので、また次回お話を伺いしたいと思います。
【濱田】  はい、わかりました。よろしくお願いします。ありがとうございました。
【湯川】  どうも、ありがとうございました。