九州芸工大への期待

大学全入は、これから始まる大学冬の時代の序章に過ぎません。
ここに、世界と日本の人口の将来推計グラフを持ってきました。青の線がこれからの世界の人口ですが、中位の推計で見ると、世界の人口は、2050年には優に90億人を超えます。低い推計でも80億人に迫り、今後とも世界の人口は増加をつづけます。
それに対して日本の人口は2006年がピーク。それ以降2050年まで、最初は緩やかですが、やがて、あれよあれよというスピードで日本の人口は減っていきます。2050年には、中位の推計でも、日本の人口は一億。更に悲観的な数字だと9000万人です。2006年から2050年までの減り方を平均すると、大体1年に61万人の人口が減っていくそうです。岡山市がだいたい61万人。浜松が58万くらいですね。熊本が66万人。それから鹿児島が55万人くらいでしょうか。2006年以降毎年、今年は鹿児島市がなくなった、去年は岡山市がなくなった、その前年は熊本市がなくなった、というペースで日本の人口は減少して行くことになります。大学全入どころか、大多数の大学で定員割れが常態となるでしょう。社会構造は激変します。毎年、熊本・岡山・鹿児島の規模の人口が消滅する時代に、今の大学の数は明らかに多いと思われます。日本にはこんなに大学は必要ないのです。
このような地殻変動を見据えるとすれば、全入時代どころか、もう少し先を見たところで、大学のレゾンデートルを考える必要があるでしょう。すなわち、大学の21世紀型の社会的使命は何なのかを踏まえ、その中でのそれぞれの大学の役割と個性を明確にし、それぞれが横並びから脱却した「オンリーワン」をめざすことです。それはそのまま大学のブランドを確立する事ともいえるとおもいます。これがないと、生き延びることは困難でしょう。
九州芸工大は、今年の10月に九州大学と統合し、芸術工学部芸術工学府としてスタートされるとのことですが、私は、これを現在の九州芸工大にとっての、大きなチャンスであると捉えています。
そのためには、九州大学と統合したとしても、この大橋キャンパスのアイデンティティをしっかりと作っていくべきと考えます。
先程ご紹介したソニーのケースで、AIBOソニーのコーポレートブランドに貢献していました。大橋キャンパスは、九州大学の中のAIBOとして九州大学全体のブランドに貢献すべきです。
他の大学に例をとれば、慶応のSFCが同じポジションです。慶応の湘南藤沢キャンパスがあるということが、慶応のイメージを大きく高めています。
あるいは大分にある立命館アジア太平洋大学の野心的な試みも、立命館全体のイメージに貢献しているようです。さらには日本大学の中でも、日大芸術学部だけは、そのユニークさから、特殊な存在感を持っています。これらは皆、それぞれの大学のAIBOだといえるでしょう。
それでは、大橋キャンパスが九州大学AIBOになるとしたら、その固有のアイデンティティとは果たして何でしょうか。
大学というと一般に理系・文系という分け方が一般的です。おそらく大橋キャンパスが加わることによって九州大学は、理系・文系に加え、「美系」というゾーンがカバーできるのだと思います。
イタリア語でアルテという言葉は芸術と技術の両方を意味するそうですが、今日キャンパス拝見しての一番の感想は、このキャンパスはアルテのキャンパスだなということでした。美系と割り切っていいかどうかは、議論のあるところかもしれません。しかし、東京でこのパワーポイントを作ってきてしまいましたので、ご容赦ください。
さて、学問領域も昨今ますますインターディシプリナリーな色彩を強めています。理系・文系中心の従来の九州大学に美系の大橋キャンパスが加わることは、相互交流による創発の観点からも、九州大学ドメイン拡大の観点からも、きわめて意義深いことと思います。
私の結論は、美系のキャンパスとしての大橋キャンパスのブランドを作っていくことが、トータル九州大学のブランドイメージの活性化、魅力の向上に通じるということです。
一方、大橋キャンパスが、九州大学からの支援を受けるという点も、大いに活用すべきです。東京から見ると九州大学のプレゼンスは明確ですが、九州芸工大は十分に認知されていません。そのネームバリューはこれからの大きな経営資産でしょう。
先程も芸工大は美系の大学と自己認識すべしと申し上げました。それはもとより、私の仮説に過ぎませんが、これから感性や情緒が、より重要になってくる気がします。
先程、2006年問題をご紹介し、日本の人口が毎年61万人減少すると申しました。人口が減っていくと、必然的に産業が衰退します。では、今の日本のGDPを保つためにはどうすればいいのか。まず、生産性の向上が必要ですが、それを度外視して考えると、毎年減少する61万人を、海外から迎え入れれば、今のGDPを保つことができるでしょう。
ご承知のとおり、日本は外国人に対し閉鎖的な国です。外国人に対し門戸を閉ざしたままで、今のGDPをキープするためには、どうも定年を77歳まで延長しないとだめなのだそうです。私、そろそろ50代半ばになりますが、77歳までタイムレコーダーを押すのは勘弁してもらいたいというのが本音でございます。
であれば、どうしても国際化せざるを得ない。特にアジアに対して国を開かざるを得ない。
では、アジアに向けて国を開くとき、どこが受け皿になるのか。
福岡の地下鉄の表示をみると、韓国語、中国語、英語が見事に表示されています。福岡は、現在すでにしてアジアに開く窓であり、今後、国際化が進めば、一層国際都市の性格を強めるでしょう。先ほどイギリスのアイデンティティをご紹介しました。イギリスは多人種の融合による新しい時代の到来を前提としています。福岡市の今後とかなりオーバラップするのではないでしょうか。
環境がより国際的に変化するとき、芸術工学系の、いわば美系の知識、ノウハウは、今までと違った意味合いを持ってくるはずです。何よりも言語を超えたコミュニケーションなのですから。
今後、九州大学芸術工学部として新しい時代にチャレンジしていくことになった時、アジアに開かれた新しい国際化時代の先端を、美系のナレッジによって、リードする大きなポテンシャルをこのキャンパスは持っているかに見えます。
こう考えただけで、私は、その可能性の大きさにワクワク、ドキドキするわけです。
もしも、そういう方向で、様々な施策、新しい研究内容、あるいは外部との連携のあり方が工夫され実施されていったとしたら。大橋キャンパスは十分際立った存在になりえます。そして、今私の感じたようなワクワク感、ドキドキ感が、外の人たちに伝わった時、新しい九州大学の美系のブランドが、出来上がるのだろうと思います。
アジアの中、国際都市福岡の中における美系のリーダーシップというのが、芸術工学部芸術工学府のアイデンティティ目標についての、私の仮説であり、期待でもあります。
大学のブランド作りも企業のブランドづくりも、そのような目標設定と、それに向けての諸活動の収斂と、それを的確に伝えるコミュニケーションが基本です。そして、それらの根底にあるのは、このキャンパスをすばらしいものにしたいという強いパッションと、ひたむきで着実なアクションです。
九州芸術工科大学の、今後のご発展をお祈り申し上げます。
ありがとうございました。