求められる戦略的視点

このように見てくると、地域ブランドをどのように築いていくかは合併自治体共通の課題であり、そこには民間企業と同様に、戦略性が求められるだろう。
では、企業の合併と自治体の合併とは同日に論じられるものなのだろうか。
両者の差異を詳細に語る紙幅はないが、大きな相違点は企業の合併が経済的合理性に基づく「マーケットの論理」と、経営者の主体的意思を尊重する「ヒエラルキーの論理」とに立脚するのに対し、自治体はまず住民の意志を尊重する「コミュニティの論理」が根本にあり、それに加えて「マーケットの論理」を考慮すべきという点にある。
具体的に事例を挙げよう。大学での同僚で、地域デザインを研究している鈴木輝隆教授によると、66年に長野市に併合された旧松代町は、真田十万石の城下町だが、真田家別邸のある史跡公園の観光客用公衆トイレ設置の陳情から完成までに10年を要したという。
いかに合併により大きな人口を擁しようと、微細に見れば地域や産業といったそれぞれは等身大の小さなコミュニティの集積として合併自治体が存在しているという事実をおろそかにしてはならないのではないかと思う。
他方、ブランドは受け手の視点で検討されるべきということを踏まえれば、市民だけでなく域外の消費者や生活者の抱くイメージを重視すべきである。
すなわち、ひとりひとりの市民のミクロの視点と、広く全国からのマクロの視点を併せ持つことが、合併にあたっての地域ブランド戦略の検討には重要であると思う。
日本広報協会「Net de コラム」原稿http://www.koho.or.jp/columns/net_de_column/index.html