【知識化】

<過度のITシステム化の陥穽>
大邱地下鉄には無人でも運転可能なハイテクシステムが導入されている.例えば搭載されているTIS(=Train Information System)では各車両の状況を一目で確認できるようになっている.また,駅への停車を認識し自動的にドアが開き,乗客が乗り終えると自動的に閉まるようになっている.現場の負担を極小化することで乗務員を1名とし,人件費の圧縮と業務の効率化を実現している.そのため,緊急時には運転司令室が管制を行うことになっている.列車の運転席からは無線電話で運転司令室とつながっているが,他の列車や駅と通話することはできない.
今回の事故では,現場の運転士や駅員が危機に遭遇したとき,適切な基本動作をとれない実態を露呈した.他方,総合司令チームは機器を通じた情報のみでは現場を把握しきれず,ここでも適切な対応をとれなかった.人命を預かり,安全と安心を確保すべき職場においては,現場で,現物に触り,現実を見極める姿勢が何にもまして重要であることを示している.過度のITシステム化には陥穽があることを認識すべきだろう.

<地下鉄駅舎の「かまど構造」>
一般に,煙は廊下など水平方向の移動スピードは,秒速0.3から0.8メートルだが,階段など垂直方向の移動速度は秒速3〜5メートルに達するという.燃焼物の上に筒状の煙突を立てると燃焼効率が良いのはこの原理による.合計8ヶ所あった階段は,煙突の役割を果たした.秒速0.5メートル前後に過ぎない人間の歩行速度では,階段を昇って逃げようとすると,瞬く間に煙に飲み込まれることとなる.
煙の上昇するルートと人間の退避ルートが重なると,必ず被害が拡大する.煙の流れを阻害する上部遮蔽幕の設置や,水平方向に避難する非常時退避ルート・避難シェルターの設置など煙からの分離の方策が求められる.
地下鉄大江戸線六本木駅は地表から42.3mの深さにある.地下7階のプラットフォームから上層階へはエスカレータ2基,エレベータ1基,階段1基でつながっている.エレベータで地上に出るためには4~5基を乗り継ぐことになる.駅舎のわかりにくさ,電力が途絶した場合の避難方法,エレベータ・階段が煙突の機能を果たす「かまど構造」などいくつかの懸念が浮上する.
その他,大江戸線の各駅,JR東京駅京葉線ホームなど多くの大深度地下駅が日本にも存在する.「かまど構造」は中央路駅にとどまらず,地下駅すべてに関わる問題ではないだろうか.