ブランドの効用

このようにして顧客の認識の中でブランドが確立すると、それは顧客のロイヤリティを高め、次の購買を促します。ロイヤリティが高まるほど、顧客は価格よりブランドで商品を選択するようになるでしょう。
佐賀関漁協はこのようなプロセスを踏むことで、浜値で10倍のプレミアム価格を達成したのです。やがては、関アジや関サバだけでなく、関ブリや関アワビへとブランドを拡張し、そのいずれでもプレミアム価格を生み出すかもしれません。
当然、一度ブランドができれば、流通との取引も容易になり、販売促進のコストを下げることが可能になります。岬サバ・岬アジをはじめとする競合ブランドに対しても、競争上の優位を保つことができます。これが企業にとってのブランドの効用です。
一方、顧客にとってのブランドの効用とはなんでしょうか。
「ビールの味はブランドが決める」という言葉があります。最近はビールの他に発泡酒の銘柄も増え、目隠しされると何を飲んでいるのかわかりません。
ビールの銘柄を教えると途端に饒舌になり、ビールの味をとうとうと語り始める友人がいます。
ワインになると、これに更に輪がかかります。ビールやワインにとり、物理的な味覚だけではなく、それにまつわる情報や薀蓄もまた味の一部なのです。関サバもまた多くの話題に恵まれ、これがおいしさの重要な一部を形成してます。ブランドは顧客の情緒的な連想を広げ、消費した際の満足感を向上させます。トヨタプリウスに乗る人は、環境に配慮している自分に満足するのです。
顧客にとっての効用の二つ目は、銘柄選択を容易にするということです。
パソコンを買うとき、皆さんはどのようにして銘柄を決定していますか。私などはスペックを見ても、何がいいんだか判断できません。
自動車もそうです。これだけ車種が増えると、排気量や車型についての希望はあっても、あとはどれがいいのか解りません。パンフレットを集めたりインターネットで情報を集め、詳細に比較検討する能力も意欲も、さらには時間も、私にはありません。
数年前、家庭用電話のマイライン登録というのがありました、電話各社がさまざまな割引を提示し、自社をマイラインに登録するよう大キャンペーンをはりました。私自身はどれが自分にとって得なのかまったく判断できませんでした。自分の電話の使用パターンにどんな特徴があるのか、まったく興味無かったからです。結果的に、その時頭の中にあるブランド知識で契約会社を決めたわけです。
購入銘柄の決定に際し、私たちは全ての局面で合理的な判断をしているわけではありません。これだけ毎日さまざまなものを買っているわけですから、銘柄の検討そのものがわずらわしいことも稀ではありません。ブランドは、銘柄選択の意思決定を容易にしてくれます。
このように、一度ブランドがお客様の頭の中に確立すると、企業にも、顧客にもメリットを与えるということが、ブランドの特徴ということです。