ブランド論の混乱

先ほど、2000年に入ってから、さまざまな企業がブランド担当組織を作っているとご紹介しましたが、これらの企業が順調にブランド構築しているのかというと、正直なところ暗中模索の状態が多いようです。
また、ブランドのセミナーは多く開かれ、人気があるわけですが、一方では「よくわからない」との声も聞くわけでございます。
そのわからなさの原因の一つは、今、ブランドという名前でいろいろな動きが出ているということがあるかもしれません。
様々な企業のお手伝いをして感じることは、何を見てブランドをつくるのかという視点で考えるとどうも三つくらいのタイプがあるという気がしております。
一つは、今まで私がご説明してきたことですが、顧客の顔をみてブランドをつくろうとする動きがあります。これをマーケティングアプローチと整理できるでしょう。
もう一つは、財務諸表を見てブランドを作ろうとする流れです。というのは、会計学の方でもブランドが世界的な話題になっているのです。アーサーアンダーセンによると、1970年代後半では、企業の株式時価総額は、バランスシートを見ればおよそ90数%は説明できたそうです。ところが最近になると、バランスシートだけでは3割程度しか説明できないといいます。バランスシートは有形資産を中心に記述するものですが、ここへきて無形資産価値が重要になってきたために、バランスシートと株式時価総額との乖離が拡大したということです。
無形資産価値とはなんでしょう。ディズニーの財務諸表をみても、ディズニーがねずみを二匹飼っているということはどこにも書いてありません。ところが、ディズニーの株価が高いのはその二匹のねずみが、たまたまミッキーとミニーであり、この権利、つまり商標権がディズニーの時価総額を持ち上げている側面があります。また、特許権も無形資産価値です。そして、無形資産価値で最大のものが、暖簾代やブランド価値である、ということです。経済産業省は会計の立場からブランド価値を算定する方式を開発し昨年発表しました。
つまり、デビット・アーカーから始まるブランドエクイティの流れとはまったく別に、会計学の立場から、ブランド価値を測定しようという会計アプローチが時を同じくして出てきております。
マーケティングの立場のブランド論、そして、会計学の立場のブランド論。この二つが混在しているのが現在の状況と私は捉えています。
そして三番目のタイプが、社長の顔色をみてブランドを作ろうとする動きです。日本特有の「バスに乗り遅れるな症候群」とでも申しましょうか、ライバル会社が何かやっているようだ、うちも検討してみろというような指示が社長から突然ふってくるパターンです。そこで、どういうブランドを何のために作るのかはっきりせぬまま、プロジェクトがスタートします。この最悪のケースも残念ながら散見されるようです。
この、さまざまな立場の異同を検証せぬままプロジェクトを進めることに伴う混乱が、今の日本におけるブランド議論にあるという懸念を持っております。
今日私が申し上げているのは、会計学的な立場ではなくて、マーケティングの立場に立脚したところで、顧客の顔を見てブランドを作るという基本的な立場だということを確認したいと思います。