ブランド構築のポイント

それでは、ブランドを構築するためには、具体的にはどうすればいいのでしょう。
まず、ブランドを作るためには、この点を明確する必要があるという項目を5つにまとめてみました。

  1. ブランド・アイデンティティ
  2. ブランド体系
  3. 戦略顧客
  4. ブランドコンタクトポイント
  5. ブランド価値評価

ひとつひとつ見て行きましょう。

最初のブランド・アイデンティティは、そのブランドがどのような特徴を持ち、顧客に何を提供するのか?ブランド・プロミスの内容そのものです。
英国やタイは、現在、国そのものをブランド化しようとしています。
英国のブランド戦略では、六つのアイデンティティ目標を定めました。この中心になったプロデューサーはまだ20代の若手だそうです。
まず一つ目の目標が「HUB UK」…つまり、政治金融交通などさまざまな領域でイギリスがヨーロッパの中心になるため、必要なインフラを整備しようということです。
それから「United Colors of Britain」。もうアングロサクソンだけじゃなく多人種、多民族から構成される、多様な価値観を内包する国家になっていこうということです。
「Creative Island」…常に新しいものを作っていく島国でありたい。
「Silent Revolution」…現状に満足することなく、常に新しいものに挑戦する、静かなる革命国家でありたいということ。
それから「Nation of Fair Play」…英国紳士の国だけに、我々は常にフェアであらねばならない。
そして「Open for Business」…開かれたビジネス環境ということでですね、ウィンブルドンには世界各地からプレーヤーが集まるように、アメリカからも日本からもやってきて、ここでビジネスをしてほしい。
六つの目標のすべてがいかにも英国的です。しかも、これらの目標が実現したら、見事21世紀型国家が生まれるでしょう。
同じ英国ですが、ヴァージングループのアイデンティティを見てみましょう。ブランソンという起業家が一代で作り上げたグループで、ヴァージンメガストアというCDショップをやっていますし、バージンアトランティック航空もこのグループです。最近はアメリカで携帯電話ビジネスに進出をするそうです。ヴァージンエナジー、ヴァージンワインという会社もあります。ヴァージントレインという社名で、鉄道事業に出ようとして、これは失敗しました。このようにヴァージングループは脈絡なくといえるほどさまざまな事業に進出しています。
そして、これらヴァージングループの様々な事業やサービスに共通してるアイデンティティが、「偶像破壊」。常識を捨てろ、新しいことにチャレンジしよう、この信念がヴァージンのブランドの中核に存在し、社会からも認知されているゆえに、新しい事業に進出するたびに、期待を浴び支持もされているのです。
かつてブランドは様々なマーケティング活動の結果として出来上がるものと考えられていました。今、ブランドは、企業が目指すべき目標であり、それに向けてさまざまな企業活動を整合させていくべきと考えられています。「結果としてのブランド」から、「戦略の起点としてのブランド」へ。この180度の転換がこの10年ほどの間に行われていたわけです。

2番目のポイントはブランド体系。ブランドアーキテクチャーといいます。
ナショナルとパナソニックはどちらも松下電器商品ブランドであることはよく知られています。残念ながら、この2つのブランドの違いは十分に伝わっていないようです。
イトーヨーカ堂セブンイレブンロビンソン百貨店は同じIYグループですが、それぞれを別のブランドとして育てています。
一方、ソニーはエレクトロニクス商品も銀行や保険の金融サービスもソニーという単一ブランドで訴求しています。
企業が持つさまざまな商標のうち、どれをメインに打ち出すか、企業によりさまざまですし、発展段階によってもブランド体系戦略が異なります。
ソニーのケースを検討してみましょう。
ブランドにはいろいろなレベルがあります。コーポレートブランドはソニーです。そして事業レベルには、例えばソニーコンピューターエンターテイメント、ソニー損保、ソニープラザなどがあります。そして、プレイステーションVAIOAIBOCLIEはいずれも、商品レベルのブランドです。
このようにブランドは、さまざまなレベルの階層構造になっています。そして、AIWAソニーグループの企業ですが、ブランド戦略上は、ソニーから独立した存在として扱っています。
ソニーブランドの優れている点は、コーポレートブランド、事業ブランド、商品ブランドのそれぞれを、大変に有機的に関係づけているということです。
AIBOの売上高はソニー全体から見れば無視できるほど、微々たる物でしょう。しかし、AIBOの存在は、ソニー全体のブランドイメージに大きく貢献していることは賛同していただけるでしょう。
一方、ソニー生命ソニー損保の保険業、あるいはソニー銀行。これらの金融領域では、ソニー全体のブランドに貢献するというより、ソニーのコーポレートブランドからの支援を受けていると見るべきでしょう。
表をご覧下さい。縦軸は、個々の商品ブランドのコーポレートブランドに対する貢献が低いのか高いのか、そして横軸には、その商品ブランドがコーポレートブランドから受ける支援が高いのか低いのか。この2軸で4象限のマトリックスを作ります。
AIBOはコーポレートブランドへの貢献が大きく、コーポレートブランドからの支援はさほど大きくないと思われることから、第2象限にプロットされます。VAIOは、ソニーのコーポレートブランド価値を高め、かつまた、その支援を受けていることから、第1象限にプロットできるでしょう。
トリニトロンはどうでしょう。かつて、トリニトロンが出来たばかりのころ、革命的なカラーテレビの技術ということで、ソニーのコーポレートブランドに大きな貢献をしました。
おそらく今トリニトロンは勢いを失い、ソニーから支援を受けるポジションにあるでしょう。第2象限に始まり、第1象限、第4象限とシフトしたと思います。
ところで、ソニーにはWEGA(べガ)というテレビのブランドがあります。今のところWEGAソニーに貢献するよりも、ソニーから支援を受ける立場ですが、最近、WEGAエンジンということを言い始めました、WEGAというのは大変な技術で、ソニーは日本のテレビ界にトリニトロンに続く第二のインパクトを与えるといっております。
私は、その内容をよく知りませんが、WEGAがこれから育ってくれば、WEGAは第2象限に移り、ソニーのコーポレートブランドに貢献するかもしれません。
このように、カラーテレビという商品一つを見ても、その商品のライフサイクルにあわせ企業ブランドと商品ブランドとの関係性が変化し、しかも、そのダイナミズムを戦略的にコントロールすることで、ソニーというコーポレートブランドの価値を高めていることがご理解いただけると思います。

次ぎに、どの顧客をメインターゲットにするかの戦略。
画期的な商品で、老若男女を対象とする商品なら、ターゲットの絞込みは必要ないかもしれません。
しかし、多くの場合、激しい競争にさらされています。ターゲットを絞り込むほど、商品の個性をはっきりと打ち出すことが容易になります。
関サバは価格からみて、一般家庭の食卓に日常的にのぼる可能性は小さいでしょう。ある程度の可処分所得をもったグルメ層がターゲットになります。そして、寿司屋さんや料亭も重要でしょう。
戦略顧客の選定は必ずしも容易ではありません。
シャネルというのは、面白いファッションブランドで、シャネルのファンははっきり二つに分かれます。まず、50代以上の奥様層。昔のハリウッド映画でシャネルにあこがれた層です。そして10代のコギャルにも大変人気があります。その中間の30代40代にシャネルはあまり評価されていません。
皮肉な事に、顧客層の平均をとると、30代40代になってしまうのです。顧客の分布を正しく把握しないと、大きな間違いをしかねません。
携帯電話の初登場は1987年のことです。最初売り出した時、NTTは都会派の青年実業家を戦略顧客として想定しました。ところが、一番売れたのは冬の北海道。雪の道を運転しているとき、吹雪の中で車が故障したら命に関わります。そんな時、携帯電話があれば、容易に助けを求められるということで、冬の北海道で携帯電話が大ヒットしたとのことです。当初の戦略顧客と実際に売れた顧客とが違っていたわけです。こんな見込み違いがあっても、修正を加えながら、最適戦略に収斂させて行くことが必要です。

4番目は、商品と顧客とが出会うコンタクトポイントの設計です。噂話、ウェブサイト、広告、製品そのもの、デザインやパッケージ、それから店内のさまざまな経験、それから買いやすさ、あるいは事故があったときのメンテナンスの問題、お買い上げいただいた後のカスタマーケアー…、それぞれの業種によって、さまざまなコンタクトポイントがあります。
関サバの場合、外食の料理屋さんやすし屋さんは重要なコンタクトポイントです。スターバックスは店そのものが、ブランド経験の場になっています。
若年層向きの商品の場合、東京の渋谷とか、博多では天神やキャナルシティなど街でのブランド経験は重要です。試供品の提供などプロモーションをどう組み合わせるかも検討しなければなりません。
そのブランドはどういうコンタクトポイントで顧客と出会うのか、それぞれのコンタクトポイントのプライオリティを評価し、それらの組み合わせや、経験の提供を工夫する必要があります。
つまり、商品と顧客との接点をトータルで捉え、戦略を創っていくことが重要です。

最後はブランド価値評価についてです。
ひとつには株式時価総額、これが最も簡単なブランド判断の基準です。ただ、この場合はあくまでもコーポレートレベルのブランド価値であり、商品ブランドについてはわかりません。さらに、会計の視点に立脚していますので、顧客との関係性については類推するレベルに留まります。
会計視点を基本にしつつも、これに顧客視点と従業員視点とを加えることを試みたものとして、一橋大学の伊藤邦雄教授が日経新聞と一緒に開発したCBバリュエーターがあります。また、日経BP社はマーケティング視点を基本に、毎年ブランドジャパンという調査を実施し、公表しています。
電通はグローバルな消費者アンケート調査を行い、ブランデックスと名付けた独自のデータベースを開発し、使用しています。
こうした、一般的データは存在するものの、本来はそれぞれの企業が独自にものさしを開発すべきと私は考えています。
ブランド価値といっても必ずしも金銭に換算する必要はありません。売上高、利益率、反復購入率のように、ブランドが企業にもたらす利潤で図る方法、イメージの傾向や好き嫌いなど、顧客の認識で把握する方法。顧客ロイヤリティや満足度、クレームの傾向と数量など、商品と顧客の関係性を調べる方法もあります。このようないくつかの指標を組み合わせ、オリジナルな評価基準を作ることが必要と思います。