事例 出版キャンペーン

以下、ブログ関連の事例を見ていきたい。まず、新刊書の告知をブログで行う事例を見てみよう。
著者が自分の運営するページで、自身の著書についての記事を書き、その記事を友人のブログにトラックバックする。
トラックバックにより、友人のブログには著者の記事のサマリーが記載され、同時に著者のブログへのリンクが自動的に貼られることになる。
簡単に言うと、著者は友人のブログに無断で広告記事を掲載し、その記事をクリックすると著者のページに飛ぶ仕掛けが出来たことになる。
トラックバックを受けた友人は自分のブログで著書についての感想や関連記事を書き、更に他の友人のブログにトラックバックする。もちろん、著者からのトラックバックを削除することも可能だ。
このようにして、新刊書についての記事が、頼母子講ねずみ講のようにネットスペースで広がっていく仕組みである。
ここのところ、ホームページやメールマガジンなどで人気を集めた著者による出版が増加している。彼らの多くはネット内での有名人であり、セミナー等を通じての交流を深め、相互にゆるやかなネットワークを形成している。
ここで事例として取り上げる「愛のバタバタ貧乏脱出大作戦!!」の著者九鬼政人もそんなネット有名人の一人である。
和歌山市ベンチャー企業を経営する著者は、創業2年目に30代半ばで大腸癌を発症。大腸の全摘手術を受けた。
それまで、24時間365日、バタバタと自分の設立した会社の経営に走り回っていた著者は、3ヶ月の入院とそれにつづくリハビリ生活を契機に、業務のシステム化と大胆な権限委譲を推し進め、結果として入院前を上回る業績と自分の自由な時間を獲得することに成功した。
この間の経緯を踏まえ、トップがバタバタ走り回る貧乏な会社(バタ・貧)から、トップがブラブラしていても自動的に成長するリッチな会社(ブラ・金)への転換のノウハウをまとめたのがこの著書だ。
九鬼の処女出版にあたり、応援団を買って出たのが、京都府綾部市在住で、恋愛テクニックのメールマガジンを複数発行するフリーライター藤沢あゆみである。
自身も03年12月の処女出版にあたりネット内でキャンペーンを行った経験を持つ藤沢は、ブログのトラックバック機能を活用したキャンペーンを実施した。
藤沢は、5月24日の発売の1週間前から自身のブログにおいて、この本の紹介を始める。さらに、発売当日を含む2日間の期間限定で、アマゾンでの売上ランキング1位を目指すキャンペーンを行った。キャンペーンサポーターを募集するとともに、期間中のオンライン購入者にプレミアムグッズをプレゼントする仕掛けである。
ブログだけではない、藤沢は友人のメールマガジンにも記事の掲出を依頼、その数は100媒体、総計946,923部に及んでいる。
容易に無料で活用できる100万部のメディアが既に登場していることに着目する必要があるだろう。
この結果、ハリーポッターの新刊は超えられなかったものの、アマゾンで瞬間的に2位、最終的には5位の売上を達成した。また、キャンペーンサポーターには132人が名乗りをあげた。藤沢のサイトはキャンペーン両日で3000を超えるアクセスを集めている。
和歌山在住の著者の処女作を、京都府綾部市の女性が推奨し、全国的な話題づくりに成功するということに、ブログのポテンシャルが示されている。

織田浩一によると、アメリカではザ・バーチャル・ブック・ツアーと呼ばれる新刊書キャンペーンのトライアルが行われているという。
ターゲットに影響力を持ちそうなブログを10〜20選定し協力を依頼する。発刊日にあわせそれぞれのブログに記事を掲載してもらい、著者はそれらのブログにコメントしたりトラックバックを送る。核になるブログからネットワークが広がるにつれ、著者は質問に答えることで、想定読者との対話の輪を広げるというのがキャンペーンの仕掛けである。
核となるブログの運営者には編集権があるとの認識から、最初の記事を作るためにそれぞれのブログにあわせた著者メッセージを作成し送付するが、その内容については介入しない。
このキャンペーンにより、期間中に約10万人がこの本の情報に接触するという。
湯川鶴章によると、アメリカのバーソン・マステラは、ネット上で影響力のある個人約1100万人を特定し、「eフルエンシャル」と名づけた彼らの組織化を進めているという。同社は、eフルエンシャルは平均14人に口コミでメッセージを伝達するという。
藤沢のキャンペーンはそれまで培った個人的ネットワークをフル活用する形態であったが、今後、ターゲット層の選定とその層への影響力の評価に基づく科学的アプローチが日本でも導入される必要があるだろう。