新聞に見る商業化の発展

「人民日報」というのは党の宣伝のための機関紙でした。ところがそうした新聞に対しても民営化して独立採算にしろという声が出てきました。そこで伝統ある新聞社は新しい題字で新聞を刊行し、それがどんどん売れています。結果的に党の公式的な事しか書いていない「人民日報」の部数は1998年に300万部だったものが今年は100万部を切るだろうと言われています。そのかわりに同社は「京華時報」というタイトルの新聞を発行しており、こちらは発行部数も順調に推移しているようです。
同様に、「北京日報」は「北京晩報」を、上海の「文匯報」は「新民晩報」を、湖北省の「湖北日報」は「楚天都市報」をといった具合にそれぞれが別題字の新聞を発行しています。
別題字の新聞が部数の獲得競争を繰り広げています。これら新しい新聞の編集方針は極めて扇動的な紙面で、日本のワイドショーや週刊誌のようなセンセーショナルな報道姿勢が特徴です。この流れに先鞭をつけたのは北京共産党青年部の発行する「北京青年報」ですが、同紙がお手本にしたは日本の「東スポ」だという説も、あながち根拠の無い話ではないようです。
また中国では全国紙がほとんどなく地方紙が中心ですが、著作権意識に乏しく、他の新聞に出た面白い記事を遠慮も断りも無く転載します。その結果インターネットの掲示板に出たような信憑性の低い記事もどんどん地方の新聞に転載される構造がすでに出来上がっています。
別題字での展開、センセーショナルな報道姿勢とならんで、新聞の部数競争に影響を与える3番目の要素は宅配制度です。日本では宅配制度の存続は大きな問題ですが、中国においてはまさに始まったばかりのサービスです。先陣を切った「広州日報」の成功に刺激され、先ほどご紹介した「北京青年報」が追随し、これを契機に各紙が宅配制度に踏み切りました。日本と異なり、専売制度は存在せず、例えば上海では2社の宅配専門業者が各紙から受託し各戸配布を行っているようです。
最後に新聞の成長を左右する要素として広告のことについて触れましょう。
四川省全体をカバーする新聞として「華西都市報」があります。部数は約70万部でその半分が省都である成都で購読されています。一方、成都のみを販売エリアとする新聞に60万部の販売部数をもつ「成都商報」があります。
中国で新聞広告の最大のソースは不動産広告です。不動産の私有が認められマンションの取得がブームとなっているのです。
都市部のマンションの広告を掲載するとき、四川省全域を対象とするより都市部にターゲットを絞り込んだほうが効率がいいことは申すまでもないでしょう。この結果、北海道大学渡辺浩平助教授のデータによると「成都商報」が広告を4億元売り上げているのに対し、「華西都市報」の広告収入は3億元にとどまっています。
このように、中国の新聞はまるで三国志のような激烈な競争を繰り広げていますが、「反日ネタ」が部数競争の格好の素材だということがご理解いただけるでしょう。