コミュニケーション戦略チーム

【濱田】通称で「コミ戦」と呼ばれる組織ですね。メンバーを教えてください。
【世耕】議員では私だけです。広報本部からは、広報局、報道局、新聞局、マルチメディア局。そして幹事長室。ここが企業で言う報道の役割を担い、記者クラブ対応もテレビ出演もここで仕切っています。それから政務調査会選挙対策本部の遊説局。また情報調査局は事実上苦情電話の窓口です。それに、外部からPRエージェンシーに参加してもらいました。合計で15名ぐらいになります。
【濱田】「コミ戦」の具体的活動を確認させてください。
【世耕】毎朝10時からミーティングを行い、戦略を決めていくわけです。
基本は前日の記事のクリッピングやTVのモニター結果、さまざまな世論調査のデータを、同じテーブルに載せて検討します。
このことは前職のNTTの広報部で新人のときに鍛えられました。24〜5歳のころ、毎朝6時半に出社して、新聞を読んで切り抜き、編集して貼りこみ、8時半までに当時の真藤社長以下33名の役員に配布するのです。重要な記事には必ずしもNTTの名前があるとは限らないわけです。そんな記事を洩らすと大変です。おかげで私には新聞を読む職人的能力が備わりました。バッと紙面を見ると、どこに読むべき記事があるか瞬時に把握できます。これは広報パーソンの基礎の基礎です。今回も記事を見て議論することからはじめました。
【濱田】世論調査も独自に実施されたようですね。
【世耕】自民党は自動音声による電話調査を契約しているんです。そこの質問項目を入れ替えれば、電話代含めて30万円ぐらいですぐにモニタリングできます。それ以外にもさまざまな調査を同時並行で走らせました。例えば、情報調査局に入ってくる有権者からのクレームは、非常に役に立ちました。意外な力を発揮したのが党職員です。議員の性格や能力に精通しているし、過去の選挙の経験の蓄積もあるということで、一番知りたいことに応えてくれました。
【濱田】さて、そのような情報収集に基づいて情報発信の指揮を執られたわけですが。
【世耕】やはり総理が最強の存在で、総理が応援に入っただけで選挙区の流れが変わるのがわかるわけです。そこで総理の日程は冷徹にデータで決めました。おかげでいまだに私は恨まれています。でも結果的にはこれが良かったのではないでしょうか。
【濱田】データ重視という意味では、世耕さんはボストン大学大学院で企業広報論の修士号をとられていますが、今回の選挙戦でそのご経験は生きましたか。
【世耕】ボストンで叩き込まれたことは、「PDCAのサイクルを廻せ」ということです。今回もそれを徹底しました。例えばテレビ討論は、従来テレビ局が出演者を決めて依頼してきましたが、今回は、討論相手を確認した上、コミ戦で出演者を検討しました。さらに、事後に出来栄えを評価し次回の参考にするといった具合です。将来はわれわれもタレント事務所の感覚を備えたいと思っています(笑)。
選挙区を駆け回りテレビや新聞を読む時間すら取れない候補者へ送ったFAX通信は一種の社内広報です。大変にありがたかったとの声が多数入っており、今後は定番作業になるでしょう。マニュフェストについては若干の反省もあるので、今後改善していきたいと思っています。
【濱田】今回、自民党は初めてブログやメルマガの作者を呼ばれました。この発案はどなたですか。
【世耕】私です。今回は大きな力にはならなかったかもしれませんが、今後に向け計り知れない効果を持った布石だと思っています。これも内容や性格をさらに明確にし、これからも年に4〜5回は継続的に開催していきたいと思います。