勝利の方程式

【濱田】お話しを伺っていて、選挙広報というのは、基本的にクライシス広報と枠組みが同じだとの感を強くしました。そうした中で、次々に重要な決断を続けられることは、かなりの重圧と思いますがいかがでしたか。
【世耕】まさにクライシス対応と同様の感覚でした。ですから、選挙中はなんともいえない恐怖感の中で動いていました。というのも、解散当初は自民党に支持が集まりましたが、マスコミ論調は郵政への論点絞込みに批判的でしたので、どこかで潮目が変わるのではないか思い続けていたのです。過去の自民党のパターンは常にそうでした。私自身の一番重要な役割は、その潮目を読むことだと思っていました。
途中、いくつかの節目はありましたが、総理がテレビに出るたびに郵政が論点として再浮上し投票日になだれ込みました。
結果論ですが、敵失に救われた部分があります。民主党の主張は何回かダッチロールを繰り返しましたが、これが一貫してマスコミ論調と足並みを揃えていたら、結果はどうなったかわからなかったと思っています。
【濱田】今回の自民党の作戦に対し、プロパガンダ批判やポピュリズム批判がありますが、どう答えられますか。
【世耕】私が手がけたのは、事実を真っ当に伝えるということなのです。私は日本のマスコミ政治報道はいくつかの問題はあるにせよ健全に機能していると思っています。広報で悪い内容を良くすることは絶対に出来ません。また、事実を伝え開示することは、無駄な議論を拝し、国の方向を過たないということで、必ず国民の利益につながることなのです。その批判は当たらないのではないでしょうか。
【濱田】「自民党勝利の方程式」として、3項目にまとめてみました。1)シンプルな論点を巡る劇場的ストーリー。2)首相のカリスマ的リーダーシップと多彩な脇役。3)システマチックな広報活動。いかがでしょう。
【世耕】まさにこの通りだと思います、ただこの前提として、論点となった政策そのものが良かったことと、また、ここに至るまでに自民党が地道に改革の努力を続けてきたことが成果につながったのだということをご理解いただきたいと思います。
【濱田】そのほかに、ずっと広報の道を歩まれてきた世耕さんとしての思いとご経験も重要ですよね(笑)。