インターネット広報の近未来

書き替えられるメディア地図と企業のコミュニケーションのあり方

「マスの論理に立脚したマスメディア広告主体の企業コミュニケーション」の発想には修正を加える必要がある。「それぞれのステークホルダーときめ細かな対話を通じステークホルダーに学ぶ企業コミュニケーション」を組み入れる必要がある。
そして、それを担うメディアがCGMを中心としたインターネットであり、携帯を活用したモバイルメディアであり、街(マチ)をメディアとして活用したSPメディアであり、フェイス・トゥ・フェイスの人(ヒト)メディアであると考える。いずれも個人が容易に多種のコンテンツを生成でき、小数でも関与度の高いターゲットとインタラクティブに対話し得るメディアである。
つまり、筆者は「デジタルメディア、マチメディア、ヒトメディアが今後の企業のコミュニケーションをリードするべきである」と考えているのである。
もとより現在の4大マスメディアがなくなるとは思わない。最も広範なリーチをもつメディアは今後しばらくは地上波テレビであり続けるだろう。しかし、そのパワーがお茶の間の主役がテレビであった昔に戻ることは決してない。
現在進行しているのは、大航海時代に新大陸が発見されたことで世界地図が書き替えられたと同様な「メディア地図の書き替え」だと思う。
こうしたメディア地図の変化に対応するために、企業もそのコミュニケーションのあり方を変化させざるを得ない。現在の私たちが有しているメディア効果についての先入観を捨て去ることが求められているのである。
これまで企業コミュニケーションの中核を担ってきたマスメディアへの広告はその比重を低め、メディアの新大陸に当たる、デジタルメディアやマチメディアをこれまで以上に有効に活用・連動することが求められ、さらにステークホルダー・ミーティングのような直接対話チャネルの開発などフェイス・トゥ・フェイスのヒトメディアへのアプローチも重視されなければならない。
こうした変化の中で、広報の役割も大きく変化するに違いない。特に、インターネット広報は今以上に重要になってくるだろう。

インターネット広報の役割

企業コミュニケーションの中核を占めていたマスメディアの広告は、これからは、常にPRやSPとの連動を計算し実施されるようになるだろう。「IMC(Interactive Marketing Communication)」の本格化である。
マスメディア主体で組み立てられていたキャンペーン計画は見直され、商品ブランドや訴求メッセージ内容から発想する、「メディア・ニュートラル・プランニング(Media Neutral Planning)」が主流を占めるようになるに違いない。
まず主要訴求ターゲットとの接点であるコンタクト・ポイントの検討が行われた後、戦略的に広告・PR・SPを組み合わせるフローが一般化すると思われる。
その中でのインターネット広報の役割は、次の3つのチャネルに分けられると思う。それぞれにつき、以下検討を加えよう。

  1. 自社ホームページを通じてのメッセージ訴求
  2. オンライン・メディアを通じての訴求
  3. CGMに働きかけることによるネット内でのクチコミによる情報の伝播

1番目の自社ホームページの構築に当たっては、技術革新の成果を活かした展開が求められる。まず必要なことは、RSS(Rich Site Summary) への対応である。
RSSとはWEBサイトの各ページのタイトル、URL、作者、作成時間、見出し、要約などを自動的に生成する仕組みである。図書館の図書カードをイメージすればいいだろう。書籍を捜すとき図書カードの検索が便利なように、RSSがあればひと目で内容を把握でき、検索が容易になる。
RSSは、新しく作成・更新された情報を自動的に発信するよう設定することができる。これにより、従来はアクセスを待つプル型のメディアだったホームページを、登録者に対しその都度更新通知を行うプッシュ型のメディアに変身させることができる。すでにRSS更新情報をチェックするRSSリーダーは多く使用されており、今後バージョンアップするメールソフトにはRSSリーダーが標準装備されると予想されているが、このメールソフトを使えば、一般のメールとともにホームページ更新情報を受け取ることが出来る。
それだけに、ホームページの頻繁な更新が求められる。高い頻度での更新は検索エンジンでの表示順序を上げることにも役立つことになる。
更新が容易であり、RSS配信機能を備えているブログの企業サイトでの利用の試みが各社で行われている理由の一つはここにある。
さて、ホームページへの訪問者にブランド経験を与えるインタラクティブな工夫も必要になってくる。「ライフカード」が行っているテレビCMの続編をホームページに掲出する仕掛けは「ブランデッド・エンターテイメント(Branded Entertainment)」と呼ばれる手法だが、一つの解決法を示すものだ。

2番目のオンライン・メディアを通じての訴求は、従来マスメディアに行っていたメディア・リレーションズを主要なネットメディアに対しても行おうとするものである。
現在対象として注目されているネットメディアには次のようなジャンルがある。

企業は、これらのネットメディアの中からアプローチすべきサイトを選定し、①直接編集部に、②署名記事を書くライターに、③時事通信などそれぞれのサイトへのニュース配信元にアプローチし、リリース配布や面談等の直接プロモートにより、サイトへの記事掲載を狙う。
これらのアプローチ方法は05年あたりからようやくパターンができ始めている。言うまでもなく、メールとブログを活用したこれらリリース配信に当たってはインターネットの特性を踏まえる必要があるが、早くからネット広報に取り組んできたPRエージェンシー「ニューズ・ツー・ユー」社長の神原美奈子氏は、リリースの要諦について、自身のブログの中で、これまでの広報を「PR1.0」、これからの望まれる広報を「PR2.0」として下の図表のように整理している。次項で述べるヴァイラル・マーケティングの観点がやや希薄な印象があるが、オンライン・メディアへのリレーションズという観点で見れば、特徴を良く捉えていると思う。

PR1.0 PR2.0
マスメディア インターネット
(主に国内の)記者 インターネット上(世界中)のあらゆる人
プレスリリースは素材(編集される) ニュースリリースは情報そのもの(一次情報)
郵送・ファックス・直接 メール・XMLAPI
新聞・雑誌記事 オンライン・メディアの記事・ブログ・RSS
突発的かつ短命な情報 パーマリンクによる情報の固定・保存
スペース・広告換算 コンバージョン率、クリック単価
話題性・新奇性 信頼性・事実・継続性
クチコミ Trackback・コメント・ソーシャルブックマーク
広報担当者 社員一人ひとりがスポークスパーソン

最後に、CGMに働きかけ、ネット内でのクチコミによる情報の伝播を狙う最後のチャネルは、CGMでの記事化を期待するものであり、今後一層スキルの向上が望まれるチャネルである。
この手法は一般に「ヴァイラル・マーケティング(Viral Marketing)」と呼ばれている。ヴァイラルはウィルスを撒くという意味合いで、ウィルスが広がるように情報が拡散することをイメージした言葉である。
ヴァイラル・マーケティングは、その商品や話題に関心をもつCGMが多数存在し、それぞれがそれに言及し、しかも多数のCGM間に相互作用が発生することにより拡散する。
消費者同士の自発的な相互作用が商品の付加価値を大きく左右するこの現象を、國領二郎慶応義塾大学教授は「顧客間インタラクション」として早くから指摘している。ネット空間はこのようなインタラクションが発生しやすい特質を有しているというのが同氏の指摘である。
ちなみに筆者は、こうした特質を企業コミュニケーションに積極的に活用することを「井戸端イジング」と名付け、予てから提唱してきた。CGMの伸長によりこの条件が技術的に整ったということである。
06年4月にスタートした「ペプシネックス」の市場導入キャンペーンでは、ホームページにやや難度の高いゲームを載せ、ゲームをクリアした人にのみ自分のブログにクリア証明バナーを掲出する権利を付与するという仕掛けにより、多くの個人ブログにバナーを貼らせることに成功した。
同じく06年4月に立ち上がった連合の「サラリーマン増税反対キャンペーン」はキャンペーン用の独自サイトに、個人別の増税額計算ソフトと、自分の増税額が国民全体の分布のどこに位置するかを示す「ずしりチャート」を掲載し、ポータルサイトのバナー広告や、著名ブロガー対象の懇談会の開催により、クチコミ発生の仕掛けをつくった。
茨城県の「三和豆友食品」は、「風に吹かれて波乗りジョニー」を商品名とする豆腐商品を開発し、ユニークなホームページの開設により話題づくりに成功し、いまや全国チェーンのスーパーへ納品するに至った。
このように、一人歩きできる話題を提供することで情報伝播を期待することが有効なアプローチの一つである。
ヴァイラル・マーケティングのもう一つの手法として、アメリカで盛んに行われている方法は、商品ジャンルや話題のテーマにつき、高い信頼性を有しているサイトを検索により割り出し、そのサイトのオーナーにプロモートする方法である。検索技術の発達がこのアプローチを可能にした。
バーソン・マーステラ社は、影響力の強いこれらサイトオーナーを「eフルエンシャル」と呼び、1人のeフルエンシャルは、平均14人にメッセージを送っていると分析している。eフルエンシャル1,100万人にメールを送れば、全米の成人に情報を伝達できるということだ。