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【湯川】  はい、引き続いて、江戸川大学の濱田逸郎教授にお話をお伺いします。よろしくお願いします。
【濱田】  はい、こんにちは。
【湯川】  いろいろなキーワードを出してくださっているんですけれども、そのうちの一つがCOM、コミュニケーション・オリエンテッド・マネジメントのすすめというのがあるんですけれども、これはどういうことなんでしょうか。
【濱田】  先ほどお話したように……
【湯川】  先ほどじゃなくて、前回。(笑)
【濱田】  あ、先日。
【湯川】  先日じゃなくて。
【濱田】  前回。
【湯川】  あまりにもそれはもう……、はい、前回。
【濱田】  前回、お話したようにですね、やはり経営の中において、コミュニカビリティーを高めるということが非常に重要になってきているだろうと。
 そうなってくると、やっぱり経営者そのものも、コミュニケーションに対する感性というのを研ぎ澄まさないとだめなわけです。そこで常にコミュニケーションを意識した経営を行うべきだというのが、コミュニケーション・オリエンテッド・マネジメントということなんですね。例えば、これはそうですね、政治の世界で見ても、小泉純一郎という人、いい悪いは別にして、コミュニケーション・オリエンテッドな政治を行ったわけです。これが支持のもとになったわけですね。
【湯川】  うん、そうですね。
【濱田】  それから、細川さんにしてもですね、ともすれば政治の世界の中では、それが何ていうか、大衆芸能的であると、ポビュリズムであるというような言い方がされることっていうのは実は事実なんです。
【湯川】  はい、ありますね。
【濱田】  事実なんですけれども、でもやはり、そこのところで、ちゃんとメッセージを外と受け渡しするというような経営をしていかないと、つまり、例えば何か不祥事があったときにも、もうすぐにメッセージを出すというようなことをやらないといかんのだろうと思います。例えば先日も、あるエレベーター会社の事故というのはあったわけですね。このときに、エレベーター会社は、おそらくその法的な、弁護士のアドバイスを受けたんでしょうか。つまり、そういう不幸な事故があったにもかかわらず、当初全くエレベーター会社からの釈明といいましょうか、メッセージというのは伝わってこなかったわけですね。つまり、何が問題を言っているのかというと、エレベーター会社はおそらく法的なリスクというものを考えたんだろうと思うんですね。
【湯川】  なるほど。
【濱田】  でも、あのときに起こったことは、法的リスクよりも、コミュニケーションのリスク、あるいはイメージのリスクのほうが影響が甚大だ、こういうの事実だったんだろうと思うんです。99年の例えば、ビデオテープのクレーマー事件なんかにしてもですね。
【湯川】  東芝ですね。
【濱田】  はい、東芝の事件なんかにしても、実はあのときに、そういうコミニュケーション上の観点という、コミュニケーションリスクというのを全く意識せぬまま、結局、法的手段に訴えたわけですね。おれらくこれは弁護士がこれは勝てますよと言っんたでしょうね。ところが勝つまでには時間がかかるし、裁判の時間がかかるし、その間に、コミュニケーションリスク上のリスクにさらされて、袋叩きになるということなんですね。東芝もそうでしたし、今度のエレベーター会社もそうなんですね。つまり弁護士の言う、説明だけ聞いちゃだめよと。もちろん、それは基本ですから、必要なんですけれども、弁護士の見解と同時に、そうしたとコミュニケーションの専門家、あるいはPRといいましょうか、PRの専門家、この見解というのを聞かなければいけないし、さらにいけば、最近のネットのコミュニティというのはですね、時として、信じられないような広がりを見せるということがあるわけです。そうすると、ネットコミュニティに通じている人、少なくとも、今これからの経営に当たっては、何か不測の事態に対応するときには、法的見解それからコミュニケーション上の見解、それから、ネットコミュニティを中心としたですね、そういう見解、この三つを押さえるというのが、ますます重要な時代になってきたなあというような気が僕はしているんですね。
【湯川】  なるほどね。法廷論争で勝ったとしても、イメージでダウンだからで損をすするということですよね。
【濱田】  そうです。
【湯川】  それで、その損失のほうが実は非常に大きくて、法的に例えば負けたとしても数百万円ぐらいだけども、そのイメージダウンを取り戻すのに何億円もかかると。
【濱田】  そうです。
【湯川】  結局、どちらのほうが被害が大きいんだというと、コミュニケーションの失敗のほうの被害のほうが大きいと。
【濱田】  これはおそらくむしろね、湯川さんに伺いたいんだけれども、湯川さんはサンノゼあたりに長くおられて、アメリカなんかの場合、やはりちょっと法的なちゃんと戦うというのは、それは別に不思議でも何でもないわけですよ、企業が。
【湯川】  はい、そうですね。
【濱田】  ところが、日本というのは、何かみんなそれこそメディアもスクラムを組むし、コミュニティもスクラムを組むし、何かというとみんなスクラム組んじゃうでしょう。これは日本的特性ですよね。
【湯川】  その辺、僕もちょっとわからないですけどね。アメリカでもスクラムを組んでるなと、それから感情が一方向に流れるなというのはよくよく見たんで、あんまり日米間はないのかなと思うんですけどね。
【濱田】  そうですか。
【湯川】  はい。ま、そうですね、でもアメリカの企業なんかでも、法的なほうで勝つことに熱心になってイメージダウンした企業というのはやっぱりよく見ましたし。
【濱田】  ありますね。
【湯川】  インテルのケースなんかもそうでしたしね。
【濱田】  あ、インテルそうでしたね。
【湯川】  よくありますよね。
【濱田】  ファイアストンなんかだってそうでしたよね。
【湯川】  そうですか。
【濱田】  フォードとファイアストンなんかにしてもそうでしたね。
【湯川】  僕自身の「炎上」の経験からいってもですね、自分のブログなんだけど、会社公認ということで会社もリスクが関係してくるということで、会社の人に相談すると、余計なことを言うなと、揚げ足とられるんで、確実なことだけを言っていけと。それで、迅速に対応できないという批判は甘んじて受けろと、そういうことを結構言われましたですよね。ところが、その姿勢でいくと、現状は燃え上がるばっかりでね。
【濱田】  そうでしょうね。
【湯川】  ですから、途中で僕が一人で全部責任を負いますからということで、私の判断で誠実に迅速に、そして、筋論クレーマーはもう一回だけの説明で、もうそれでしないというふうな感じの対応にしたんですけどね。やっぱりちょっと一般的な、広報、危機管理広報とは、ちょっとネットは違うのかという感じしましたですね。
【濱田】  やっぱり例えば慶応のSFCの先生方がよくおっしゃるのは、ネットワークの論理というのと、ヒエラルキーの論理と、マーケットの論理と3つあるんだという言い方しますよね。もちろん、マーケットの論理と、ヒエラルキーの論理でもって、今、日本の企業社会というのは成立しているわけですけれども。
【湯川】  ヒエラルキーの論理ってどういうことですか。
【濱田】  つまり、社長が一番偉いよと、部長のほうが課長よりも偉いよと。
【湯川】  組織のね。
【濱田】  物事の物差しがポスト、それからモノと物差しというのがお金となると、これはマーケットの論理ですよね。高いのか安いのか、幾らなんだということですね。ところが、何というんだろうな、ネットワークの論理ということになると、実はいかに自分が情報を出すかみたいなところってあるじゃないですか。そうすると、それが返ってくるみたいなところって、あるじゃないですか。
【湯川】  はいはいはい。久米信行さんがおっしゃっておられる「ギブ・アンド・ギブ・アンド・ギブ・アンド・ギブン」というやつですね。
【濱田】  そういうことですね。
【湯川】  出せば出すほど、情報が集まってくるという話ですね。
【濱田】  そうそうそう。そうすると、実はネットワークの論理とマーケットの論理というのは折り合いつけることができるんだけれども、ネットワークの論理と、それからヒエラルキーの論理というのが、実はかなり相性が悪いんですね。ですから、湯川さんのブログに対してですね、ヒエラルキーを重視、尊重しつつ、社内的な合意を経て、その上でネットワークでもって対応しろっていうと、そこにそこの断層が、ネットワークの論理とヒエラルキーの論理の断層が出てきちゃうということなんだろうと思うんですね。
【湯川】  ネットワークの部分はわりと個人参加なところがありますからね。
【濱田】  そうです。
【湯川】  会社の仕組みと、うまく交わらないというところが、たしかにあるかもしれないですね。
【濱田】  ありますね。
【湯川】  そこをどう折り合いをつけていけばいいですかね、これは。
【濱田】  例えば、アメリカなんかの場合には、コミュニケーション担当副社長みたいな存在って結構いますね。広報担当っていうか、CCOというチーフ・コミュニケーション・オフィサーという、CCOなんですけれども、やっぱり日本の企業も、そういうかなり高いレベルに、社長もしくは副社長というレベルにCCO、チーフ・コミュニケーション・オフィサー、これがつまり社長が陣頭に立てば、これは今のヒエラルキーの論理を乗り越えることができるわけですね。
【湯川】  なるほどね。
【濱田】  もう一歩進めると僕は実はチーフ・コミュニケーション・オフィサーだけではなくて、チーフ・コミュニケーション・パーソナリティー、人格というのが随分問われるわけですよ。チーフ・コミュニケーション・パーソナリティーというのは、これから、ネットの社会と適合していくためには、チーフ・コミュニケーション・パーソナリティー、CCPというものが必要なんじゃないかという気がしています。もっともこれもCCPも全然方々で情報発信していませんから。(笑)
【湯川】  あまり聞いたことないです。
【濱田】  聞いたことないでしょう。ま、CCOでいいんですけどね。
【湯川】  でも、日本の企業の場合ですと、どうなんでしょう。こういうチーフ・コミュニケーション・オフィサーというのは社長であったりしないんですかね。
【濱田】  社長、もちろん、そういうコミュニケーションに対する感性のするどい会社というのは、社長が陣頭に立っているというケースがあります。こういうところだと、実はネットの論理との相性というのは、必ずしも悪くないと思っています。あるいは、それこそ役員の方、副社長とか、あるいは広報担当の取締役とか専務とか、常務とかという方がいらっしゃるところがありますが、その比率は必ずしも多くはないです。
【湯川】  企業が大きくなればなるほど、それから古くなればなるほど、比率高くないですよね。できたばかりの企業というのは、わりと企業の社長さんのカリスマで会社を引っ張っていくところがあって。
【濱田】  そうですね。
【湯川】  彼がその人が、コミュニケーション・オフィサー的な役割を果たす場合も相当あるんですけども、それが代がわりしたりとか、規模が大きくなってくると、そうでもなくて、経営能力があるけども、コミュニケーション能力はないという方が社長になる場合も多いですよね。
【濱田】  ということはどういうことかというと、例えば歴史の長い会社、古い会社ですね、それから大規模な会社、今まで非常に財界において、貴重なポジション、枢要なポジションを占めていた会社、これらが大体ヒエラルキーが非常に確固としちゃっているわけですよ。
【湯川】  そうですよね。
【濱田】  ですから、役員室のフロアに行くと、そこだけ絨毯の毛足の長さが違ったりするわけ。
【湯川】  はいはい、します。役員用の別のエレベーターがあったりとかね。
【濱田】  あったりしますね。それにベンチがついていたりなんかするのね。心臓が麻痺でも平気なようにね。ま、それはどうでもいいんだけれども。(笑)つまりそういう会社が、これから、ますますネットというのが一般的になってくると思うんですね。そういう環境変化にどこまで、アダプトできるだろうか。
【湯川】  そうかそうか。企業のヒエラルキーというのが、それこそ、ピラミット型になっていますから、ネットというのはフラットの世界ですからね。
【濱田】  そうです。
【湯川】  これは全く合わないわけですよね。
【濱田】  そうです。どっかで、折り合いつける必要があるわけです。それができる会社とできない会社とがあって、そこのできない、いつまでもピラミッドとうのを確固と守っている会社、これは、それこそネットワークからはじかれていくというような気がしますね。
【湯川】  よく聞く話で、例えば軍隊なんかは完璧にピラミッドの社会じゃないですか。それで、そこにネットワーク、インターネット的なものをもってくると、フラットになって、一兵卒が指揮官に直接メール送れたりとかできるわけですね。
【濱田】  はいはい。
【湯川】  ですから、ちょっとやっぱりそこの論理をどうするんだという話は結構、以前から聞いたことはあるんですけれども、だから、ネットワーク、インターネットを入れないんだというような結論に達したところもありますよね。
【濱田】  なるほどね。つまりこういうことなんですよ。それもローマの軍団にしても、ああいう、あれで軍隊の形というのはでき上がるわけですけれども、これはつまり、コミュニケーションのシステムなわけです。
【湯川】  なるほど。それが一番情報伝達の形として、最もスムーズだったから、そうなったわけですよね。
【濱田】  そうなったわけです。ところが、だから、例えば湾岸戦争のときに、「山・動く」という本だったかな、つまり米軍のロジスティックスのチームがいるわけですね。ロジスティックスのチームというのは食糧、弾薬、どこにどう運ぶかみたいな、ああいう飛行場をどうやって、どこにつくるかみたいな大変なビジネスと同じようなことをやるわけだ。これは何かそれこそ、メモ用紙というかな、ポストイットみたいな、メモ用紙をボスがぐるぐるみんなに回すことによって合意をとると。有名なところでは、同じような形では、サントリー佐治敬三さん、これは「○メメモ」といって、気がつくと、メモのメに丸をつけた、「○メメモ」というのを担当者に回すみたいな要はやり方で、その指揮命令をしていたわけですよ。ですから、当然そのときのコミュニケーションの状況によって、組織の形というのは変わってくるだろうと思うんですね。
【湯川】  インターネットというコミュニケーションのツールができたわけですから、あらゆる組織はフラットの方向に進んでいくんでしょうか。
【濱田】  えーと、必ずしもすべてがフラットな方向に進んでいくと思いません。つまり、物事を効率的に進めるためにですね、ネットワークというのは非常に効率の悪い、民主主義と同じですね。手間暇がかかる話ですから、当然ヒエラルキーっていうものは重要です。だれが指揮するんだ、だれが担当なんだというのは重要です。しかしながら、そことそれからそのネットワークと、この両方の顔つきを持たなければいかんということなんだろうと思うんですね。
【湯川】  マイクロソフトビルゲイツはですね、あんまり会社を大きくしたくなかったというんですね。
【濱田】  ああ、わかりますね。
【湯川】  1,000人ぐらいが一番コミュニケーションとれるんで、それピラミッド型の組織よりも、オーケストラ型、指揮者が一人いて、全員にメッセージ送れるという、そういうふうな組織でありたかったんだという話を以前していたんですけれどもね。
【濱田】  おもしろいですね。文房具のプラスさん、これもやっぱ社長さんが、これも大分古い話なんで、現状がどうかちょっと把握していないんですけれども、やっぱり何年に一回、全社員と昼飯、ランチを一緒にしたい、名前と顔が一致したいよと。そうすると、名前と顔とが一致する限界というのが、どうも1,000人ぐらいらしいんですね。
【湯川】  そうみたいですね。
【濱田】  だから、それ以上にしたくないよっていうことを、まあ、おっしゃっていたとか、それから警察の場合には、村落がこれ1,000人じゃなくて、1,000戸ですね、1,000戸以上になると、そこで初めて駐在所をつくる。駐在所をつくった途端に虞犯者というかな、犯罪をするおそれのある人間が2割出てくると、こういうことのようなんですね。それまでも1,000戸以下の集落でも当然いるんだけれども、髪の毛を赤くしたとかね、湯川のところのタロ吉がスイカ泥棒をしよってという、そういう何ていうんだろうな、コミュニティの自浄作用というのが働いていたわけですね。そんなような気がしますね。
【湯川】  インターネットというツール入ってきて、じゃ、指揮命令系統が残るとしても、どういう形のものになっていくんですか。
【濱田】  うーん、やっぱり何というんでしょうかね。おそらくもっとフラットなプロジェクト型というようなことになってくるといいのかなみたいな気がします。それぞれのタスクごとにね。
【湯川】  わりと個人がアメーバのように動いて、このプロジェクトにはこの人たちがガッーと有機的に集まってきて、また別のプロジェクトになったら、またみんなばらばらになって、またくっつくと、そういう感じですか。
【濱田】  そうですね。
【湯川】  エージェント型というか、そういう感じですかね。
【濱田】  うん。ま、ちょっと長くなりましたんで。
【湯川】  はい長く……。
【濱田】  この話はじゃちょっと……。
【湯川】  いや、それは私が言うセリフですよ。(笑)
【濱田】  ああ、ごめんなさい。はいはい。
【湯川】  私が司会なんで。長くなったので、この話はこの程度ですいません。どうもありがとうございました。