小泉自民党に学ぶ広報戦略のポイント

小泉自民党の大勝は、広報の観点からみても今年の重大トピックスといえるでしょう。広報活動の総指揮をとった世耕弘成参議院議員は、縦割りでバラバラに行われていたさまざまな広報機能を「コミュニケーション戦略チーム」と名付けたプロジェクトチームに一本化し、そのチームに外部コンサルタントの「プラップジャパン」の参加を得、自民党の歴史で初めて戦略的選挙広報を展開したのです。
眼を海外に転ずれば、昨年のアメリカ大統領選挙ではカール・ローブ補佐官が広報戦略を統括し、地すべり的大勝の原動力となりました。
世耕議員のとったアクションで見逃せないのが、党本部の6階にあった広報本部長室を4階の幹事長室の隣に移したこと。事実世耕議員がホームページに公開している日記を見ると、ここを拠点としてでしょうか小泉・武部・与謝野・安倍・竹中といったキーマンと頻繁にミーティングを行い、精力的なコンセンサスづくりの活動を繰り広げています。
広報を語る場合、かならず「トップ広報」が大事だと指摘されます。この意味合いは、取材対応や緊急時にあたって、トップが前面に立たなければならないということとともに、広報はトップの意を戴して社会に働きかけ、その活動により把握した社会の意志や価値観の変化を、かならずトップにフィードバックし経営戦略に反映させなければならないということでもあります。
その観点から、今回の世耕議員の活動は広報のお手本とでも言うべきものでしょう。NTTの本社で広報部報道担当課長をつとめ、ボストン大学で、企業広報論の修士号を取得した広報の専門家ならではの動きです。

顧客イニシアティブの時代

ご承知のように、広報の中には、企業や組織が情報発信を行う「狭義の広報活動」と、社会からの情報を受信する「広聴活動」が含まれていますが、近年、後者の広聴活動の重要性が再認識されています。
戦後日本の経済発展の牽引役を果たしていたのは、長い間、企業の旺盛な事業展開でした。やがてダイエー西友を筆頭とした流通業のバイイングパワーが大きな力を持つにいたり、今、バブルの崩壊とモノ余り状況の中、顧客の力がついてきています。いわゆる消費者主権の時代です。
このことを私は「企業イニシアティブから顧客イニシアティブへ」と表現しています。
この場合の「顧客」概念には、消費者だけでなく、株主、地域社会、従業員、取引先、社会一般など、幅広いステークホルダーが含まれます。顧客イニシアティブの時代にあって、企業はそれまで行ってきた独善的な経営では立ち行かなくなりました。相次ぐ企業不祥事も「社会の常識」に目をつぶり、「会社の常識」に固執することから生まれるケースが数多く見受けられます。株主の意見を傾聴せずして経営はなりたちません。
「顧客」に学ぶ姿勢なくして経営ができない時代なのです。
となると、顧客や株主や社会等の外部論理を社内に組み込むことが今日の大きな課題であり、その役割の中心となるのが広報です。
ステークホルダーとのコミュニケーションから指針を得ようとする経営を、「コミュニケーション・オリエンテッド・マネジメント」と呼ぶことができます。
NGOとの共同作業で家電製品を開発した担当の方から、最初はNGOの方と全く意見がかみ合わず何度も行き詰まり、プロジェクトが空中分解するのではないかと案じていたが、やがて相互理解が進み画期的な製品の開発に成功したという話しをうかがったことがあります。これなどはその好個の事例でしょう。

広報部門を立ち上げる4つのポイント

企業はさまざまなレベルでコミュニケーションを展開しています。
広告・宣伝、メディアリレーションズ、社内広報、IR、CSR活動、地元対策、インターネット、イントラネット、そして危機管理活動。
いやはや、目的も対象もメディアも多様化の一途を辿り、広報の領域も多岐にわたっています。
新しく広報部門を立ち上げるとしたら、どの領域をカバーし、どのような機能を持てばいいのでしょうか。
留意すべきポイントを4点挙げたいと思います。
まず、広報組織設計に先立ち、広報機能設計を行うべしということです。
前述のように、広報の目的は自ら情報を発信し社外のステークホルダーの認識を変えるとともに、外部の情報を受信し外部の論理を社内に取り込み、経営戦略に指針を与えることです。
自分の会社がどのステークホルダーと深く関わるべきか、IRやCSR活動の展開をどう考えるのか、トップはどのように関与するのか。まず基本方針を定めましょう。
次に、チーフ・コミュニケーション・オフィサー(CCO)を決めてください。自民党の場合は世耕議員がこれにあたります。
広報の仕事というと、マスコミとの対応と思われがちですが、企業の広報部長の仕事の7割は社内折衝だといわれます。
マスコミ取材を受けるだけの受動的広報にとどまらず、戦略的広報を展開しようと思えば日常から社内コンセンサスを作っていく必要がありますし、緊急時には独断でディシジョンする必要もありますから、トップと隔意なく話ができることはもちろん、社内からの信頼も篤い人材でなければなりません。
3番目のポイントは、広報を担当する専任セクションと、社内横断的な広報プロジェクトチームの二重構造で考えるということです。
広報は広報担当セクションだけでなしうるものではありません。「全員広報パーソン」というスローガンをよく耳にしますが、社内各所から情報を集めるためには広報を理解した人がそれぞれの部署にいる必要がありますし、現場の方が取材対象になることもあるでしょう。このプロジェクトチームは緊急時対応のスタッフにもなります。このプロジェクトチームをまとめ、CCOのスタッフとして機能するのが広報専任セクションです。
最後のポイントは外部のPRコンサルタントの起用が必須であるということです。
広報ツールの作成、モニタリング、マスコミへのプロモートなどに専門的ノウハウを活用する目的だけでなく、外部の論理に立脚して率直にアドバイスしてもらうことがコミュニケーション・オリエンテッド・マネジメントの推進には欠かせない要素であるからです。特にその存在は緊急時には頼りになるはずです。